正三角形は3辺の長さがすべて等しい三角形である。
今,挙げたのは,正三角形の定義である。思い返せば,小学校のころ,コンパスと定規を使って正三角形を描いていただろう。コンパスは,長さをはかりとる道具であり,定規は直線を引く道具だったはずだ。だとすると,正三角形をかくのに,小学生の我々は,3辺の長さだけに注目していたことがわかる。実に素晴らしい定義である。
正三角形の3つの角の大きさはすべて等しい。
今,挙げたのは何だろうか。ちなみに,これが事実であることは,だれも疑うはずがない。最初に正三角形をならう小学生は,正三角形とは辺の長さも角の大きさも同じであることを定規や分度器を使って調べ,真実であることを知るからだ。
では,これは定義だろうか。いや,定義ではない。なぜなら,定義は3辺が等しいという先ほどのものだからだ。では,この正しいとわかっている角の話は…。
勘が良ければ,本章のタイトルに目が行くのかもしれない。要するに,これが『定理』である。
定理とは何かを簡単に言うと,定義や定理から簡単に証明できる事柄のことである。
ここで,いったん数学の言葉を紹介する。
命題 真偽がただ一通りに定まる事柄
真 命題がいつも正しいこと
偽 命題がいつも正しいとは限らないこと
証明 ある命題が真であると明らかにすること
反例 命題が偽だとわかる例
いろいろな言葉を一気に紹介したので,頭が混乱するといけない。2つの例を挙げておこう。
例1 命題 \(x = 0\)
証明
真偽 この命題は真である。
例2 命題
反例
真偽 この命題は偽である。
話は前回に戻る。数学者というオタクたちは何をしているのかという話だったが,要するに,命題を作っては,それが真偽いずれなのかを考え,証明するという作業をしている。上の2つの例のように,数学とは,ありとあらゆることを命題と考え,それを示すことでそのものについて分かったと考える学問なのである。先ほど以来,説明が大事とか,正解よりも理解が大事とか申し上げているのは,この考えが根底にあっての話である。
ところで,証明という言葉が出てから,アレルギー反応を起こしている方はいないだろうか。まずは,ご安心いただきたいが,本章では,証明についてあれこれをするつもりは一切ない。なぜなら,証明もまた,数学が苦手になるきっかけであるからだ。ただ,証明の仕方云々はさておき,証明というのが数学の本質であるという認識だけは持っていていただきたい。そう,この価値観の部分が一番相容れない部分であり,数学を嫌いに,苦手になる根本原因なのだ。
まあ,そうして証明したことというのは,たいていが使えないものであることが多い。先に紹介したフェルマーの最終定理も現代社会にどう役立っているのかを正しく伝えきることは難しい。
しかし,数学世界の中で役立つことというのは数多くある。そうして,定義から簡単に証明ができて,数学の世界でいくらでも役立たせることができるものを定理と呼んで,しょっちゅう使うことにした。要するに定義とは,偉大なる先人が真であることを証明した,よく使われる命題のことである。だからこそ,定理として皆に知ってもらおう,皆に使ってもらおうという気持ちで善意から教えているのだ。
ここまで長々と書いてはみたが,数学が苦手な方にも是非分かってほしいのは,定義とは違うというその一点である。簡単な言葉でまとめよう。
定義 きまり・ルール
定理 法則・便利機能
ということだ。そして,定理はすべて証明が可能であることも忘れないでほしい。ちなみに,たいていの定理は,教科書の中で証明がされているはずである。
定理の類似品として公式というのがある。公式は計算に使える定理 のことである。一般的には,公式内の文字に,数や式を当てはめるだけで答えが出るものを指す。言うまでもないがこれも先人の知恵であり,知っておいて損がないことである。
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